台湾・標高3,000mを越える合歓山荘前

遠藤やすひろ

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海外自転車旅のススメ

はじめての海外自転車旅 台湾(その4)

2005/5/3(火) 6日目

 朝起きて外を見ると天気はどんよりしてるけど、今すぐ雨が降ってくる様子はありません。少し早めに朝食をとって出発です。今日は長い1日になりそうです。霧社までは、昨日の来た道を引き返すので、アップダウンを繰り返しながら標高を上げていきます。標高差2,200mというのがどの程度きついものなのか全く想像できないので、まずは余裕をもったペースで走っていきます。
 霧社まで戻り再び14号線を登っていくのですが、いきなりの九十九折で標高がぐんぐん上がって、あっという間に霧社の碧湖が小さくなっていきます。この道、実は昨日、霧社の町から見えていて「うわっ、あそこ走るんか、、、」と思っていたのです。。。それでも毎日それ程負荷をかけずにここまで来たので、足の調子はなかなか良いです。

 昨日、廬山温泉までの道を走っているときにも思ったけど、山の斜面のあちこちにたくさんの集落と畑が見えます。どこからあそこの集落に行くの?って思うようなところばかりで、日本ではなかなか見られない風景でした。

 いくつか小さな集落を抜けると、観光地らしき「清境農場」なるものがありました。日本の高原に良くありそうな観光牧場なのかな?でも、わき目も振らずに登っていく私、、、「清境農場」を過ぎると九十九折ではなくなるのですが、そのかわり勾配がきつくなった気が、、、追い抜いていく車もエンジンを唸らせて登っていきます。私のエンジンもさっきから唸りっぱなしです。

 それにしても今日は追い抜いていく車やすれ違う車から盛んに声をかけられます。どう見ても合歓山・武嶺を目指しているのは明らかなので応援してくれているみたいです。峠越えって絶対ひとりっきりじゃ辛いだけだと思うんですよね。もちろん峠越えの醍醐味は登りきったときの達成感ですが、みんなが声かけてくれるから「よし頑張ろう!」って思えて、そういうのも楽しくて峠越えをやっているだよな~きっと。

 定期的に小休止しながら登っていきますが、さすがにかなりへばってきたので鳶峰のパーキングで一休みすることにしました。ここで約2,700m、空気も薄いからばてるわけです。パーキングで休んでいると8人くらいの台湾人のグループに声をかけられました。お昼を作っているところみたいで、待っている人たちはトランプをして遊んでいます。最初、中国語で話し掛けられたのですが「あーすいません、私、日本から来たんです」というようなことを英語で答えたら、皆驚いていました。「ビジネスで来ているの?」と聞かれたので「遊びです」と答えたのですが、なんだろう、台湾に来ている日本人というと仕事できているっていうイメージがあるんでしょうか?このときだけでなく結構あちこちで「仕事で来ているのか?」って聞かれましたし。でも、ビジネスで来ていたら自転車乗ってこんな山登らないでしょ(笑)

 話しているうちに1人の女性が「お昼、一緒に食べていきなさいよ」と誘ってくれたので、遠慮なくご馳走になることにしました!作っていたのはイカ、海老、すり身の団子などが入った雑炊でした。なんか台湾らしいよね~もちろん美味しくいただきました!

 私の自転車に興味を持った人もいて、暫し自転車談義(言葉がわからないので、それほど活発な会話はできませんでしたが、、、)ビンディングペダルを見た1人が「こんな小さなペダルで漕げるのか?」みたいなことを言っていたら、もう1人が私のシューズの裏を指して説明してました。「このバイクはカナダメーカのものだけど、made in Taiwanだよ!」と私が言ったら「おお~」と言って、皆、うけていました(笑)

 皆さんにお礼を言って出発。もうひと頑張りです。雑炊パワーで一気に頂上だ!

 、、、と言いたいところですが、この残り標高500mがマジきついです。空気が薄くてちょっと休んだくらいじゃなかなか体力が回復しません。それでもヘロヘロと力なくペダルを漕ぎ続けます。もう高い木もなく森林限界が近づいています。あたりはすっかり霧に覆われ、どこまで登ればいいのか皆目見当がつきません。先が見えないことがいいのか悪いのか、、、

 さらに昆陽のパーキングを過ぎ、残り標高200mほどになったところでポツポツと冷たいものが、、、あともうちょっとなんだからもってくれよ~と祈りながら最後の力を振り絞り、、、って足が重くて全然ダメ(笑)

 しばらくもがいていると霧の中なら建物が見えてきました。武嶺のパーキングです!! 視界が悪かったので急に現れた感じがして、一気に気が抜けてしまいました。

 武嶺3272m!上ったぞ!!!

 天気も何とか本降りになる前に峠に着きました。
 しかし寒い~~ 峠で余韻に浸ることなく、今日の宿、合歓山荘へ。下りを1.5kmほど進むと山荘がありました。システムは日本の山小屋と同じような感じです。相部屋ですが1泊2食付で480元でした。安い!

 山荘に着いて部屋に入ったらまさにバタンキュー(笑)

 いやぁホントお疲れ>自分

 それにしても、常々思っているのですが、自転車って動力を使用しないで陸上を移動する手段(道具)としては、非常に効率的なものではないかと。個人差もありますが、1日で60~70kmの移動はそれほど負荷無く行えるし、少し慣れれば100kmくらいは特別な能力を全く必要としません。人によっては200km、300km以上だってOK。
 しかも積載能力もほどほどにあり、私も今回の旅では10kg程度の荷物を積んで走ってます。キャンプしながらとなればそれ以上の荷物を積むことも。自分の足だけでこれをやろうと思ってもまず無理です。単純に急な登り坂だけなら、自転車の質量が無い分、自分の足で登ってしまった方が良いと思いますが、登り続けるだけの道っていうのはあり得ないのですからね。

 それもこれも「慣性」のおかげです。自転車ってこの「動いているものは動き続けようとする」という物理法則を上手く使った乗り物だと思います。
 基本的には何の化石エネルギーも使わずに100kmという距離を1日で移動できてしまうんだから素晴らしい道具だと思いません?

 にもかかわらず、上海だったかな?自動車が増加してきて、それに伴い自転車と自動車の 事故が急増したのですが、その対策としてなんと自転車の方に規制をしたそうな(2005年当時の話)
 今の時代、ヨーロッパの人が聞いたら気が狂っていると思われるぞ、ホント。

 この台湾の合歓山もそうだけど、3,000mを越える場所まで容易に自動車で行けてしまうのは正直どうかと思います。基本的には車の通行は規制するべきだと思います。昨日の登りでも観光バスや大型トラックが真っ黒な排ガスまき散らして登っていました。日本でもよくお目にかかる光景ですが、日本のそれより(自動車の整備不良と思われる)さらにひどいです。
 埔里の宿の主人は「山の方は空気が美味しい」といっていましたが、少なくとも登っている最中はそれを実感できませんでした。山の上は確かに気持ちよかったけどね。

今回登ってきた14号線は東西横貫公路の支線なのだから、霧社から東西横貫公路の合流地点までは一般車の乗り入れを規制してもよいと思います。乗鞍みたいにシャトルバスを運行するとかいう方法をとれないものか、、、
 そうしたら世界でも屈指の(自転車)ツーリングスポットになるかもしれません。そう思えるくらい山の上の自然は素晴らしかったです。

台湾・標高3,000mを越える合歓山荘前・表恋の高い山道で自転車がガードレール脇に停められている、遠くに山が見える

 手遅れにならないうちに何とかできないものかなぁ。

(走行距離:40km)