7 10
あつき「うーん、やっぱりよくわからないな」
梵「あれ、何か困ったことでもありましたか?」
「あ、ちょうど良いところに。ちょっとわからないことがありまして」
「わかることなら、お答えしますよ。どんなことでしょう」
「いつも宿曜占星術のお話、するじゃないですか。で、生まれた時に27宿の性質が分かれるとか、それに沿って運勢が決まるというのはわかるんですけど『曜』ってどこに出てくるんだろうと思って」
「お、良いところに目をつけましたね。そうなんです、実は曜にも大事な役割があるのですが、ざっくりお話する時は、そこまで掘り下げませんものね」
「毎日、必ず今日は何曜日、なんて言っているのと関係があるのかどうか、考えると夜も眠れなくて、なんていうのは冗談ですけど」
「ですね、冗談でないと困ります。夏場は季節的に心臓を始めとした『心』に負担がかかるので、自分から不眠になるようなことはご法度なのですが、そのお話は次回にするとして、曜の話、進めていきましょうね」
「お願いします」
「日曜、月曜、火曜、水曜、木曜、金曜、土曜、この七つは一つにまとめて七曜と呼ばれるのですが、全て名前に冠している星のエネルギーと関係があるとされています。そして、これらは『七曜暦』と呼ばれた特殊な天文暦に出てくるもので、実は今私たちが使っている曜日とは、関係ないものでした」
「え、関係ないんですか!」
「関係なかった、という過去形が正解でしょうか。現在では、日と曜は関連づけられて考えられていますよね。ですので、現在のカレンダーに表示されている曜日を、そのまま七曜のエネルギーと考えて用いる方法が取られることも多いんです。ですので、現在では関係があると考えられているわけです」
「なんだか複雑なんですね」
「概念の話だけだと難しくなりますが、実際どうなっているかを見るとわかりやすくなりますよ。例えば、私は翼宿の生まれですが、生まれた曜日は火曜日です。曜の性質は、名前に冠している星のエネルギーと関連が深いわけですから、私は同じ翼宿の中でも火星っぽいエネルギーの持ち主で、例えて言えば他の翼宿より血の気が多いとか、何かあるとすぐ戦わなくちゃ!と思う方だとか、特色が出るわけです」
「えー!そんな風に変わるんですか。それじゃそれぞれの宿には、七つの曜の分だけタイプが分かれてるってことになるんですか?」
「そうですね、細かく言うとそういうことになりますし、実際に宿曜占星術で細かく見る場合は、そこまで分類できるということになります」
「私は鬼宿で日曜日の生まれなんです」
「ということは、懐が広くて面倒見がよすぎる、という特色がついた鬼宿ですよね。もともと面倒見がいい鬼宿の性質に、更にプラスされてくるので、下手をするとマイナスになりかねません(笑)」
「きゃー、それは怖いー(笑)」
「また、性格への反映だけでなく、それぞれの曜に吉凶が関連しています。日曜、月曜は大吉日、木曜、水曜はそれに次ぐ吉日で、火曜、金曜、土曜は不吉なのだそうです」
「やった、大吉日!で、先生は、もしかして不吉・・・(笑)」
「気づくの早いですね(笑)もっとも、この『曜』のすごいところは、国家レベルでの吉凶を占う時にこそ大事だったことなんです。つまり、個人の運気で発現する場合は、多少運がいい、ちょっと運が良くない程度の、生まれつきのパラメーターの誤差程度と考えて良いと思います」
「ただし、特定の組み合わせである3種類の日だけは、格別威力を発揮する日として注目されていました。それが『甘露日(かんろび)』『金剛峰日(こんごうぶび)』『羅刹日(らせつび)』の3つです」
「『甘露日』は何をするにも大吉祥の日、仏様の加護を受けられる最高の日とされています。『金剛峰日』はそれに次ぐ吉日で、金剛力=凄まじく強い力、が峰のようにグイグイ盛り上がる時という意味なので、積極的に何かをする、昔であれば戦に出向くのに向いているような日です。これらに反して『羅刹日』は何をしても災禍を招く大凶日と言われています。羅刹とは人を惑わし、あるいは食べてしまう鬼のことで、そういう存在が支配する日なのですから、なかなか無体なことも起きるでしょうね」
「星の力を借りても、良い日ばかりというわけには、いかないんですね」
「そうですね、何せ羅刹日の支配星は火星。火星は昔からよく言えば勇気、悪く言えば乱暴みたいな力の源なので、使い方次第で壊滅的・破滅的な結末になることは、簡単に想像できるところでもあります。全ての火曜が羅刹日ではないどころか、羅刹日になる組み合わせはごくわずかなのですが、あろうことか私の生まれ日である翼宿・火曜は羅刹日に当たっているんですよ。個人の運気には、あまり反映されないとする『曜』ですが、さすがに強い組み合わせの元では、人生に波乱が起きやすかったり、性格が揺れやすかったりと、余波を受けることは私が保証します(笑)」
「更に、その宿と曜の組み合わせによって、吉が凶に転じる期間が、1ヶ月に渡って発生することもあるのですが、その辺りは書くほどにややこしくなるので、ここでは割愛です。あまり目立たないけれど実は『曜』も大事な役割を担っているということだけ、覚えておいていただけると良いと思います」
「そうなんですね。外国では、曜日占いなんていうのもあって、性格に反映されるのは何となくわかる気がするんですが、宿曜占星術では、それを国家の吉凶を占うために使っていた上に、個人の人生まで翻弄するほど強い作用があるなんて、なかなか想像が追いつきません」
「紛らわしくなるかもしれませんが、個人の運勢を見るのに『九曜流年法』なんていうのもあって、必ずしも国家のためだけでもない辺りが、ある意味、手厚いというか欲張りというか。七曜に、羅睺(らごう)と計都(けいと)という月の交点に当たる二つを足して考えていきます。あ、今は考えなくていいです。そういう使い方もある、ということですから」
「そうは言っても、やっぱり運気は運気なんです。気がどう運ばれるかを暗示するだけで、その気をどう乗り越え、受け止め、あるいは受け流して生きていくかは私達次第。占いでも何でも、全ては自分がよりよく生きるための手がかりやヒントに過ぎません。知識と経験を増やして、わからないことが減っていけば、無知だった頃より生きやすくなる。その知識と経験の源が『試練』であり、試練を暗示してくれるものの一つとして、活用できるなら占いを活用すればいい、それだけのことです」
「大事なのは、知ること、わかること。この暑い時期には、つい放棄したくなる面倒ごとの一つかもしれませんが、今回も『曜』ってなんだろう、の疑問から、ここまでたどり着けたんです。小さい子供みたいに、是非『なんだろう』を忘れないでくださいね」
「はーい、なんだか夏休みの自由研究を思い出しました(笑)」
まとめ
- 宿曜占星術の「曜」は国家レベルでの吉凶判断で、特に役に立つ
- 宿と曜のコラボ特殊日として「甘露日(大吉)」「金剛峰日(吉)」「羅刹日(凶)」がある