食養生 〜わたしたちのイマドキごはん〜

梵恵

2 18

雨水の巻

★☆雨水の巻☆★
 夜はまだ冷えると言っても、明るい時間はグングン増えてくる、それが春先の特徴。
 温度的には、まだ大して上がらなくても、着るものが徐々に薄くなり始めて、モコモコのコートやセーターの出番が減っていく代わりに、華やかな柄のものやパステルカラーの洋服が、出番を増やしていきます。
 見上げれば寒々とした感の強かった空も、今や早咲きの花や芽吹き始めた緑が混ざり始めて、日に日に鮮やかさを実感することも多くなっていることでしょう。
 花が開いていくのに合わせるかのように、私たちの体にある毛穴も、また少しずつ開いてきています。冬の間はキュッと閉まった状態を保って、大事な栄養が外に出ないように、悪い邪気が入って来ないようにと頑張っていた毛穴たち。それが今度は、余分な水分や老廃物を外に出し、新しいものを入れようと、準備を整え始めるのです。
 前回、中医薬膳の世界で春の季節に必要なのは「体内の気を巡らせること」と「毒を外に出すこと」だと言い、先にやるべき毒出しの食材をお勧めしたわけですが、毒が出ていくのは腸からだけではない、ということなのですね。
 さて、腸はほぼ一方通行の作りなので、外部から何かが侵入する脅威については、あまり考えなくてもよいのですが、肌の方は皮膚呼吸の役割があり、出したり入れたりが普通なので、そうはいきません。そこを狙って、春の邪気である「風邪」が忍び込もうと躍起になっています。
 この「風邪(ふうじゃ)」は百病の長と呼ばれる厄介なシロモノで、いわゆるカゼ(感冒)は、この風邪がもたらす症状の一つに過ぎません。それでも邪気になる前は、ただの「風」であり、ビュンビュン吹いて春を呼んでくれる、季節の風物詩そのものとも言えます。
 風が体内に入って暴れ出すと、かゆみや痛みがあちこちで発生したり、くしゃみ・鼻水・涙が勝手に出始めたりする他、気持ちが舞い上がってうっかりミスが多発したり、イライラしやすくなって八つ当たりが増えたりと、精神面にも影響が出てきます。困っちゃいますよね。
 そこで今回のお勧め食材は、シソ。邪気を飛ばす作用がある上に、気を巡らせて解毒する効果もあるのです。これに合わせて、葉ねぎもお役立ち。単なるねぎではなく、葉ねぎ、あの青い部分ばかりのねぎを使ってください。イライラの元になる体内の暴れ風を抑え、邪気を飛ばして解毒する効果まであります。
 何気なく少量使うことが多い食材かと思いますが、この時期は「これがメイン」と言えるほどの量を使うのがコツ。ただし、身体を温める作用もあるので、気温の高い日中より、ひんやり感の増す夜の方が使い勝手はよいでしょう。
 西洋医学的には、毎食30品目を摂ることが健康への道、なんていう時期もありましたが、東洋医学的には、遥か昔から、季節と体調に合わせた食事こそが体のバランスを保つ養生とされています。いくら栄養を入れたところで、栄養を吸収分解する体の調子が整っていなければ、意味がありません。食養生は「漠然と体にいいもの」ではなく、中医学に基づいて、理論的に導き出されたものなのです。
 (出典:日本中医食養学会編纂「食物性味表」改訂2版)