食養生 〜わたしたちのイマドキごはん〜

梵恵

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啓蟄の巻

★☆啓蟄の巻☆★
 とうとう、夜になっても凍えるほどの寒さはなくなり、体温が外気温と直結するような虫でも、活発に動けるような時期がやってきました。
 人によっては、多少の寒さを我慢してのオシャレという苦行から、段々と解放されますね。ここまでは防寒体制だった方々も、日中は時折、上着を脱ぎたくなるほどの暑さを感じて、春らしい服を身にまとう機会も増えていくようになることでしょう。うーん、春。
 一方で、花粉症や感冒、じんましんや移動性のかゆみなどに悩まされる方も増えてくる頃合いです。吹き荒れる風にゴミやホコリが舞い上がり、私たちを襲ってくることも度々あって、楽しいことばかりではないのが少々痛し痒しなところ。
 何よりイヤなのは、そんな風に煽られて、私たちの心までがイライラを募らせてしまうこと。
 私たちに害をなす風、「風邪(ふうじゃ)」が百病の長と呼ばれる厄介なシロモノであるのは、前回ご紹介済みです。イライラの元にもなる上、放っておけば頭に血を上らせてヒステリーみたいな症状を引き起こすこともありますし、テンションの上がり方をおかしくさせて、いわゆる変態さんを作り出してしまうこともあります。「春の変態」は、現代社会の風物詩であるだけでなく、中医学的に見ても季節に即した異常状態だったのですね。
 そこまで極端な状態にならないとしても。解毒してせっかく空けたスペースに余分な気が停滞して、すごく怒ったり、突拍子のない言動に出たりなんて、恋の1つでもできたら素敵なくらいの春なのに、切なすぎます。
 よし、それなら対抗しましょうよ、食材で。というわけで、今回多用したいのは柑橘類です。シトラス系の香りがサッパリとした気分をもたらすように感じるのは、気のせいではなく、事実。
 それなら大丈夫!レモン、大好きなんです。グレープフルーツ、毎日のように食べてますよ!なんていう声も、聞こえてくるかもしれませんね。近頃では、シークワーサーを使ってのドレッシングなんかも、よく使われるようになってきていますしね。
 すごく良いことです。それらの食材は、消化を促進したり、胃を守ったりする効果の高いものも、結構多いのでね。ただ、金柑以外は体を冷やしやすい性質があるので、冷やさずに常温で食べたり、温かいサラダに使ったりして、体を冷やしてしまわないように注意してください。
 栄養学の観点からいけば、必要な栄養素が摂取できること、そして吸収されやすい形であることが重視されますが、中医薬膳の観点では「体を冷やさないこと」そして「温めすぎないこと」も大切です。
 寒い時期は辛い物、長風呂で大量に汗をかくのが良いという通説も、過ぎれば体内の陰液(血・水分)が飛び過ぎて逆効果に。美しくなるつもりで、シワシワになったりカサカサになったりでは、つまらないですものね。
 何よりも、本人にとってのバランスの良さが重視される中医薬膳。上手に使って、イライラをワクワクに変え、楽しい時間を増やしていきましょう。
 (出典:日本中医食養学会編纂「食物性味表」改訂2版)