食養生 〜わたしたちのイマドキごはん〜

梵恵

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春分の巻

★☆春分の巻☆★
 いよいよ、春の分かれ目たる春分がやってきました。春の分かれ目って、何の分かれ目?
 正解は、陰の気から陽の気へと、主導権が変わる分かれ目。これまでは半分以上が陰の気だった世界が、春分の頃を境にして、陽の気主体の世界へと変化していくのです。日が出ている時間は段々と長くなり、暖かさや寒さもジワジワと交代していく中では、ここが切れ目とハッキリ意識するのは多少、難しいかもしれませんが、ここはイメージを膨らませて、暗く翳りのあるイケメンが、明るく若い少年にバトンをタッチする様子でも、想像してみてください。ちょっと楽しいでしょ?
 暑さ寒さも彼岸まで、と昔から言うのも、陽気が増えれば暖かい時間が増えるのは自明だということを、簡単な言い回しでみんなに知らせるためのものだったのでしょう。それにしても、そんな素敵な時期に、何故お墓参りの時期が重なるのでしょう。寒い時期が終わって、外出しやすくなるから、という理由だけではなさそうなんです。
 お彼岸の時期は、三途の川の向こう側である「彼岸」と、こちら側である「此岸」(しがん)の距離が近くなります。三途の川もまた、陰の水と陽の水でできているとすれば、陰陽が半々になるこの時期、水同士が相殺しあってグッと水量を減らすのは自然なこと。それを直感的に知っていた我らがご先祖様たちは、今こそ彼岸の近づく時として「お彼岸」と呼び、亡くなった方々と触れ合う機会として重宝したと考えれば、お彼岸時期の設定としては、割と納得できる理由になるのではないかと思えます。
 川岸同士が近づけば、声は届きやすく、姿は見えやすくなります。私にはそういう能力、全くないんですという方でも、「身近に感じる」「思い出す」という形で、ちゃんと触れやすくなっているんですね。
 ここで、食養生です。何故急に?と思われるかもしれませんが、あの世の話や見えないものの話というのは、私たちの意識をフワフワと舞い上がらせ、気を上げてしまいます。前回、春は気を上がらせ、頭にも血が上りやすい話をしましたが、お彼岸時期は、その上げ上げムードを一層助長する時期に当たるということなんですね。
 気を下げ、足に地をつけていくに向いている食材として今回ご紹介するのは、セロリ。淡い緑と白のコントラストは、見た目からすっきり感をもたらしてくれます。ただ、多少冷えやすい性質があるので、暖かい日中以外は火を通して食べるのがベター。
 セロリは匂いがどうしてもイヤ、という方は、ピーマンでも大丈夫。こちらは体を冷やさないので、夜でも生でもお好きに食べていただけますし、これも苦手!という場合でも、肉を詰めてクッタクタになるまで火を通してしまえば、とても食べやすくなりますよ。
 春というのは面白いもので「分かれ」の時期が来てから本格的に盛り上がります。「別れ」の時期が来てから、出会いの時期がくることとも符牒しますが、新しいことに目を向ける前に過去を引きずる気持ちを割り切り、痛みや悲しみを癒しながら前進することが、人としての成長にもつながっていくのですね。そして、心のバランスが崩れやすい時ほど体のバランスが大事になることも、また事実。誰でもない、自分自身が自らをいたわってこその春。皆さんの心にも、桜が美しく咲き誇りますように。
 (出典:日本中医食養学会編纂「食物性味表」改訂2版)