食養生 〜わたしたちのイマドキごはん〜

梵恵

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穀雨の巻

★☆穀雨の巻☆★
 穀物がすくすく育つための、雨の時期。そろそろ、春も終わりを迎えようという節気がやってきてしまいましたよ。ようやく暖かさを堪能できることも増えてきたかな、という頃合いに、随分気が早いものです。そう、「気」というのはサクサクと素早く動いて、世界をどんどん動かしてしまうのですよね。
 新しい環境にも慣れてきて、気持ちも明るくなってきました。そんな風にうまくいっている方でも、これまでの緊張や無理が溜まってきて疲労感が取れなくなるケースは出てくるでしょう。ましてや、現状に慣れるのに苦労して日々イライラ、キーキー。そういうところを見せないように、おしとやかに立ち振る舞うのも気苦労の元です。なんていう方も、いらっしゃるかもしれません。一方、学校や仕事を離れたまま、今も次の方針が決まっておらず、先の見えなさに頭痛や不眠が止まらない方も、実は結構いらっしゃるかもしれません。
 いずれにしても、この時期は、ずっと私たちに影響を続けてきた春の気も総決算を迎える頃合いで、私たちがちっとも欲しいと願わない「テンションの異常アップ」を、夏の気に変わりゆく直前の置き土産にしようとします。いりません、と言っても置いていきます。
 テンションがアップするならいいじゃない、なんて思えるかもしれませんが、前回の「陽気」「陰気」の話を思い出してください。陽気な人というのは、確かに側にいて楽しいことが多いですし、賑やかにしてくれて明るくなって最高、と思える瞬間も多いでしょう。
 けれど、夜になっても、深夜になっても、ずーっと明るくて盛り上がりまくっている人が側にい続けたら、どうでしょう。眠れませんよね。頭が痛くなってきます。うるさいなぁ、とイライラもしてくるでしょう。何なら一回怒鳴ってみたら静かになるかな、と良からぬ考えも浮かんで来るかもしれません。それらと同じ症状が、テンションの異常アップ、すなわち多すぎる陽気の影響で、出てきちゃうわけです。イヤですよね。
 ずっと陰気な状態が困るのと同じように、ずっと陽気に満ちた状態であっても、私たちは困ります。時間に合わせて陰陽が移り変わり、静と動のメリハリがあってこそ、私たちは健康に過ごすことができるのですよね。
 そんな風に、陽気がワーッと増えて、体内の気も悪い意味で上昇志向になっている時は、それを穏やかに鎮めてくれる効果の高い菊花がおすすめの食材となるのですが、あまり手に入らない、手に入っても美味しくない、調理の仕方がわからない等、一般的には日常に密着しない素材感が否めないところ。少々冷えやすいところも、冷え性の方には厳しいところかもしれません。
 そこで一押ししておきたいのが、獅子唐辛子。体を温めるので、日中以外に少しずつ食べるのがコツ。お酒を嗜まれる方であれば、日々の肴に取り入れればバッチリですね。元々、一度に大量に食べるものでもないので、他の料理にも、彩りとして添えるにピッタリの素材となるはずです。
 世界に恋をするのが、楽しく生きるコツだとしても。忙しくて気持ちがパツパツなままでは、世界を好きになるどころか、自分すら嫌いになってしまうかもしれませんよね。夏が来る前、心身ともに、自分を磨きたい時期でもあります。笑顔が自然と出てくるように、食養生、お忘れなくですよ。

 (出典:日本中医食養学会編纂「食物性味表」改訂2版)