食養生 〜わたしたちのイマドキごはん〜

梵恵

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立夏の巻

★☆立夏の巻☆★
 ここからは夏の節気が続いて、どんどん世界は夏らしさを増していくことになるのですが、立夏の直前に、いつも存在している日本らしい素敵な区切りがあります。それが「八十八夜」。二十四節気とは別に雑節(ざっせつ)という区切りがあるのですが、八十八夜はその雑節の一つです。
「夏も近づく八十八夜 野にも山にも若葉が茂る
 あれに見えるは茶摘みじゃないか 茜襷(あかねだすき)に菅(すげ)の笠」
 こんな手遊び歌を、祖母から教えてもらったことがあります。立春から数えて八十八日目に当たる八十八夜は、お茶の芽が伸び始める頃合いでもあり、いわゆる「一番茶」を摘む時期にも当たっています。
 想像してみてください。どこまでも続くかのような、なだらかな斜面は、みずみずしい若葉の色と、それを彩る一段階深めの緑に覆われて、目に染みるような艶やかさに満ちあふれています。見れば、紺色のかすりを茜色のたすきでからげ、菅笠をかぶって茶摘みに勤しむ人たちが、あちらにも、こちらにも、ちらほらと。春を越えて夏を迎えようとする空は、ますます鮮やかな青に染まり、そこから降り注ぐ太陽の光は輝きを強めて、更に世界を鮮やかに見せていく。
 ますます、陽気がたっぷり増えていく季節の予感。夏本番に向けて、私たちの心と身体を準備するためにあるのが、八十八夜。この日に採取したお茶は「八十八」という末広がりの数字に絡めて、縁起の良いものとされてきました。また、八十八で「米」と読めることから、農業にも本腰の入る時期だと認識されてきました。
 季節の間をスムーズに移行できるように、自分たちを無理なく導いていく。いくつかある雑節は、徐々に、けれど確実に変化していく世界を少しでも楽しく、明るく迎えられるように工夫されたものばかりです。
 まさに今を旬の皮切り時期とする、お茶。少し前の世代の人たちまでは、日々の生活にお茶の葉を欠かさず、急須に葉とお湯とを注いで、頻繁に口にしていました。
 緑茶には、やんわりと身体を冷やす効果があるので、日中は結構温度が上がりやすくなるこの時期にピッタリなのですね。更に良いことに、喉の渇きを止めてくれる効果もあるので、暑さの勢いでゴクゴクと冷たいものを飲み続けてしまう、なんていう失敗を減らしてくれます。
 もう一つの特徴として、気持ちを落ち着けて、頭や目をスッキリさせる効果もあるのが嬉しいところ。カフェインが入っているのに、気持ちが落ち着くの?と疑問に思われるかもしれませんが、お茶の旨味成分であるテアニンには、瞑想中に出るというα波が出ちゃうくらいのリラックス効果があるのですね。
 鉄分の吸収を阻害するので、貧血の方には「どんどん緑茶を」とは勧められないのですが、ほうじ茶や麦茶なら鉄分の邪魔をあまりせずに、お茶の良いところを取り入れられるので、代用してみてくださいね。
 季節のものを取り入れながら、身体を陽気あふれる夏に馴染ませていく。立夏を越え、夏至を越えて夏を楽しむための体力、免疫力、持久力を手に入れていく。先人の知恵、生かしていきましょう。

 (出典:日本中医食養学会編纂「食物性味表」改訂2版)