食養生 〜わたしたちのイマドキごはん〜

梵恵

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小満の巻

★☆小満の巻☆★
 小さく満ちてくると書いて、小満。
 何が満ちてくるの?と言えば、この時期バリバリに増えてくる陽気。農作物的に言えば、前年にまいた小麦がそろそろ実りだす頃なので、その実りについて小さく満ちてきた感じがする、というのもあるでしょうし、更に実ったことに対する農家さんのホッと安心できる感じを一つの小さな実りとして表現している、とも言えるでしょう。
 漢字というのは素晴らしいですね。文字そのものに意味がある分、たった二文字でできあがっている熟語でも、様々な意味を込めることができるなんて。
 さて、春先には「風邪(ふうじゃ)」、つまり風の性質を持った邪気に悩まされることが多かった一方、暑さが際立ってくると今度は「暑邪(しょじゃ)」が台頭し始めます。暑いことは悪いことではなく、季節に合った良い風情なのですが、これが人体にとって不都合をもたらす状態になる、暑に邪気がくっついてしまう、そうなると暑邪になるわけです。
 暑さがする悪さと言えば、私たちの体から水分を持っていってしまうことが一番にあげられるでしょう。汗が出る、熱が上がる、顔が赤い、全身火照る、そして喉が渇いて仕方がない。仕方ないからとガンガン水分や冷たいものを摂ってしまうと、今度はむくみが出てきてしまって大騒ぎ、なんてことも出てきます。
 暑い時期なので、汗が出るのは良いのです。そこで水分を持っていかれたまま時間が経過した時、それが問題になるわけですね。物理的な対策としては、極力継続して暑い場所にいないこと、水分を摂ること、冷えすぎているものは摂り過ぎないことなど、昔から一般的に言われている事柄を、励行していくのが適切です。
 それじゃ、食養生的にはどうしましょうか。この時期、日中は腹が経つほど暑い日も出てきますが、夜になると意外にスッと冷えることがあったりして、なかなか微妙。よっしゃどんどん冷やしていこう、でもないし、さりとて温めるのはもっと違うし、と。
 ここでお役立ちなのが、青梗菜(チンゲンサイ)。既に、日常の中でもよく使っていらっしゃる方が多いとは思うのですが、これの使用量を増やしていくということですね。
 青梗菜には、体を冷やす作用があるのですが、冷やし過ぎない特性があります。しかも、血の巡りを良くするのに、精神を落ち着かせる作用もある。いわゆる「血気盛ん」を無駄に引き起こすことなく、血流が良くなるというわけなんです。
 自然に沿って生きる私たちの体は、陽気が増えてくるとどうしても、様々なものが上がりやすくなります。テンションだけならまだしも、気が上がり、血が上がり、と重心が上の方に移動してしまえば、地に足がつかなくなっていきます。そんな状態で、物理的な暑さに襲われたら、体調がよくなるわけがありません。バランスが悪すぎますからね。
 そうは言いながら夜になると、まずまず過ごしやすい今の時期。青梗菜で緩やかに、上がりすぎたものを下げながら過ごせれば、健やかに5月を終えていくこともできるはず。
 5月病というのも、結局は今の自分を等身大で理解せず、どうしたらよいのか先行きを見失うから、なってしまう面もあると思うのです。力がないなら、つければいい。知識がないなら、入れればいい。焦ることなく、地に足をつけて。そんな意識で積み重ねていければ大丈夫。青梗菜で気持ちを落ち着け、カッとならずに血を巡らせて「継続は力なり」をいつか体感してやろうと、ドンと構えていきましょう。

 (出典:日本中医食養学会編纂「食物性味表」改訂2版)