食養生 〜わたしたちのイマドキごはん〜

梵恵

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処暑の巻

☆★処暑の巻☆★
 「処暑」の処は、いわば対処の処。暑さに対処する最後の節気であり、この二週間を過ぎると「白露」、露が下りる時もあるほど寒暖差が出てくる時期へと移行していくわけです。
 暦の上ではお名残惜しい、しかし現実には未だ残暑バリバリの今こそ、しこたまナスを食べておきたいところです。秋ナスも美味しいですが、旬としては7月~9月で最盛期は今ですし、何より体内の熱を取り、余分な水分を追い出す作用を活用できるのが今の時期だからです。
 数年前のお盆、会ったこともなかった祖母の祖母が、当時のごちそうだったと言って、ナス焼きを教えてくれました。ごく普通に網でナスを炙っていく間に、肉味噌を作っていきます。この肉味噌は、味噌と味醂に加えて山椒を混ぜ込むのです。当時は、よく取れたので実山椒を入れていたそうですが、私の手元には粉山椒しかなかったので、とりあえず代用を。実際には、ナスを炙るのもガスではなく炭火が本式だそうです。
 恐らく明治時代のレシピなので、非常に単純です。単純なのですが、とても美味しかった。そして、今になってわかることは、食養生的にもバッチリな内容であったということ。
 ナスには、体内の熱を取る作用と、水分を排出する効果があると書きましたが、いざ「旬だからたくさん食べよう!」となった時、熱が下がりすぎ、水分が出過ぎてしまう可能性がアップします。
 ここで、豚肉、味噌と山椒です。これらの食材には、熱を下げすぎず、水分の出過ぎを補い、ナスのアクを解毒するなどの効果があります。「焼く」という工程でも、冷え過ぎを抑えることができますし、味醂にも「全体を調和させる」という素晴らしい効能があります。詳しいことを知る由もないはずの祖母の祖母の中に、既に食養の知恵が脈々と生きていたのかと思うと、しみじみと心に沁みるようです。
 そして何より当時一番、体に良かったこと、それは「食べすぎないこと」だったのかもしれません。
 「当時は物が豊かでなかったからね。今は、仕方ないでしょ」
 そう言ってしまえば、そうかもしれません。しかし、4千年前の中医学の知識と知恵が、今になってもそのまま使えることを考えれば、私たちの体が昔から大きく変化しているわけでないことは明白です。つまり、物が豊かであろうがなかろうが、極端な生活をずっと続けていれば、体に支障が出るのはやむを得ないということ。
 私たちの体が持つ陰陽バランスの素晴らしいところは、一日二日ぶっ飛んだ生活をしたところで、続けさえしなければ、いずれ中庸な健康状態、あるいは小康状態へと戻っていくところです。それは自然界も持っている、いわばホメオスタシスなのですが、自然界のバランスの乱れは、私たちは関与することができず、ひたすら影響をうけるのみですよね。
 外界からの影響を受けつつ、自分たちの生活の煽りも受ける私たちの体。しかも夏場は様々な理由で、物理的な無理を体にさせてしまいがちです。夏に無理をすると、季節が移ってから高熱が出て体調を崩す、とは中国最古の医学書である『黄帝内経』にも記されている古来の常識。
 わかっているけど、羽目をはずしちゃうんですという時期は、あっても良し。でも、秋の足音が本格的に聞こえて来た今、そろそろ胃腸や肝臓も「週休二日」程度のシフトに変更して、アルコール、脂っこいもの、甘く冷たいものを抑えるモードに入ってあげられるといいですね。

 (出典:日本中医食養学会編纂「食物性味表」改訂2版)