食養生 〜わたしたちのイマドキごはん〜

梵恵

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大寒の巻

★★大寒の巻★☆
 いよいよ、一年で一番寒い時期がやってきました。冬至の段階で陽気が最少になった分の温度変化が、現実に降りてくるのが大体、今くらい。それはもう、大きく大きく寒くなるのも当然です。子どもの頃には、こんな歌を口ずさんだ方も結構いらっしゃるのではないでしょうか。

 「おおさむこさむ 山から小僧(こぞう)が 泣いてきた
 なんといって泣いてきた なんといって泣いてきた
 寒いといって泣いてきた」(歌詞は諸説あり)

 寒くて泣くとはどれほどかと一瞬驚きますが、山一帯に深々と雪が降り積もる頃、暖を取る手段もなく忍び込んでくる冷たさや冷えに、小僧も泣くしかなかったかと想像できれば納得です。
 私の祖母の時代(大正~昭和初期)は暖房器具が火鉢しかなかったそうです。子どもはみんな火鉢の上に四つん這いになって全身で暖を取ったそうで、「股火鉢」と呼ばれたそれは、見つかれば確実に「行儀が悪い」と叱られる行為ながら風物詩の一つでもあったようです。
 今の時代は暖房器具や断熱技術も進んでいるので、歌に表されたような、逃げようのない底冷えに悩まされ続けることは少なくなっているかと思えますが、雪が降れば溶ける間も無く積もる場所も多いですし、やはり体を内側から温めることは、生きていく上で最善かつ最短の防寒策であることに変わりはなさそうです。
 そこで、食養生。どれほど文明が進もうとも、私たちの体が日常的に栄養を摂取するには、口から食材を入れて消化吸収するしか、手立てはないのですから。
 肉類には体を温める作用のものが多く、良質なタンパク質を豊富に含んでいる点でも運動不足になりやすく体力・筋力の落ちやすい冬に向いている食材と言えます。鶏なら温中補気、豚なら滋陰補腎と得意分野を生かして使えると一層良いわけですが、牛は補気活血の側面以外でも特殊性が高く「幸せホルモンを含んでいる」と言われています。
 私たちの体内にあって多幸感を生み出すセロトニン。これがたくさん脳内にあると「あー、幸せ!」と感じる力が上がるということですね。その原料であるトリプトファンを多量に含むから、というのが牛肉礼賛の理由のようですが、大切なことはそれを含む全ての栄養がきちんと全身に届けられる体内環境を整えておくこと。それはそのまま、免疫力や防衛力のアップにつながり、襲来する寒邪を跳ね除ける体づくりにつながっていきます。
 年末年始の飲食模様によっては、そろそろ体重や体型が気になり始める頃かとは思いますが、今は新陳代謝が最低まで落ちる時期。立春までは「弱ってしまうから体重なんか減らしてやらない」と、体も意地を張っている時期です。
 ストレッチは不可欠、それでも注目すべきは体重・体型ではなく、五臓六腑の働きっぷりと、気血津液のめぐり。バランスの取れた働き・めぐりは、結果として私たちの体を数値では表せない「バランスされた美しさ」へと導きます。
 目覚めの季節到来まで、あと少し。健やかに迎えられるよう、整えていきましょうね。

 (出典:日本中医食養学会編纂「食物性味表」改訂2版)