ココナッツプリン

長谷川裕子

7 8

diy cooking

蛋白質の熱変性と卵の凝固温度。あるいは、ココナッツプティング

 美味しい物は好きですか?
私は大好きです。
外食で美味しい物を食べると、どうすればこんなに美味しく出来るのかしらと、自分なりに再現してみたりします。
子供の頃から趣味で作るお料理やお菓子作りは好きでしたが、おさんどんは今も大嫌いです。
私が料理するのは気が向いた時だけ、作りたいモノだけを楽しんで作ります。
知らない食材や新しい調理器具を手に入れると、早く試してみたくてワクワクします。
でも、私の作った料理を美味しいと褒めてくれた人に、レシピとコツを伝えると、異口同音に返ってくるのは、
「お料理じゃなくて、化学の実験みたいね!」
という言葉でした。
確かに小学生の頃から理科の実験のような気分で、あれやこれや試してみるのが大好きでした。
私のレシピのコツには蛋白質の変性温度とか浸透圧、糖のカラメル化やメイラード反応、澱粉の糊化なんて言葉が出てきます。
学校の授業みたいだと敬遠しないでください。
理屈を理解してみると、驚くほど簡単に美味しい料理が仕上がります。

 今回はココナッツプリンを作ります。
卵白と卵黄の凝固温度が違うのは知っていますよね?
温泉卵の黄身はねっとり白身はぷるるんとした仕上がりは、卵黄と卵白の凝固温度の差を利用した調理法です。
具体的には卵黄の固まり始める温度は65℃で完全凝固は70℃、卵白が固まり始める温度は58℃で完全凝固は80℃ですが62℃〜65℃でゼリー状に固まります。
生卵を68℃のお湯の中に入れておけば、美味しい温泉卵が出来上がります。
カスタードプリンもこの卵の凝固温度を知った上で作ると、とろけるブリンも、つるんとしたプリンも、カタラーナのようなしっかりしたプリンも思いのままです。
今回は加熱は80℃程度でなめらかな食感のプリンに仕上げます。
耐熱の容器であれば、プリン専用のカップでなくても大丈夫です。
ところであなたはお持ちのプリンカップの容量を知っていますか?
一度お水を入れて計ってみてください。
フチまでいっぱいに入れるのではなく、プリンをカップから出しやすい分量を目安に量ると良いと思います。
私の持っている耐熱ガラスのプリンカップは、100ccと200ccでちょうど綺麗なプリンが出来上がるサイズです。
卵2個と牛乳や生クリームの合計量が400ccとお砂糖で卵液を作ると、ちょうど500ccになります。
100ccのカップで5つ分、色々なカップで作るのなら、ちょうど500ccの卵液が綺麗に分けて入れられる分量の物を選びましょう。

 カラメルシロップはまとめて作って清潔な瓶に入れておくと気軽にプリンが作れます。
アイスクリームにかけても美味しいですよ。
私は200gのグラニュー糖でたっぷり作って瓶に保存しておきます。
カラメルソースを作るのが苦手だという人は時間をかけて作ると失敗せずに作れます。
砂糖は160℃を超えるとカラメル化し始めて、180℃で完全にカラメル化します。
逆を言えば、160℃までは決して焦げないという事です。
小さめの鍋に分量のお砂糖とお水を入れて弱めの中火にかけて、お砂糖が溶けきって沸騰したら弱火に落とします。
時間があるのなら最初から弱火でも構いません。
鍋の中のドロドロに溶けた砂糖水を火傷に気を付けながら、くるくると鍋肌を回すように揺すってかき混ぜます。
うっすらと色付いてきたら気を付けて、好みの色に染まるのを、時折くるくると鍋を揺すりながら待って、好みの色になったら耐熱の容器に一気に移します。
鍋から出してしまえばそれ以上は温度は上がらないのでカラメル化を止めることが出来ます。
自然に冷めるまで待って蓋をして保存しましょう。
明るい金色から濃い色まで、何種類かのカラメルソースを作っておいて、ブレンドしても美味しいです。

 それではココナッツプリンの作り方。
まずは全ての材料と器具を用意します。
お菓子作りやお料理で一番大事なのは何だと思いますか?
毎回同じに美味しく、失敗せずに作りたかったら、「はかり」はとても大切です。
デジタル表示のキッチンスケール、温度計、大さじ、小さじ、計量カップetc.
はかる素材が液体か個体か、粉末かペーストかでも、適した計量器具は変わります。
金属の計量カップで正確に計った1カップの小麦粉は、ガラス製の計量カップの1カップのメモリまでとどきません。
ふんわりふるった小麦粉1カップとぎゅうぎゅう押し込んだ小麦粉1カップの量は全然違いますよね。
でも、ふんわりふるった小麦粉100gとぎっしり押し固められた小麦粉100gは見た目は違っても同じ量です。
粉モノや粒の大きさがまちまちなモノは重さではかるようにすると良いでしょう。

用具

 さて、料理は化学実験と同じです。
失敗なく進めるために、必要な材料や器具や材料をすべて用意してから始めましょう。
砂糖は固まりを崩して小皿にはかっておき、必要な数の卵、牛乳やクリームも必要な量をはかって用意します。
鍋やボウル、ホイッパーや漉し網も用意して、すべて机の上に並べます。
大丈夫ですか? 全部揃っていて、足りないモノはありませんね。
これで途中で足りない材料をコンビニやスーパーに買い出しに行ったり、慌てて洗い物をする心配はなくなりました。
それでは安心してココナッツプリンを作り始めましょう。

材料・用具

 まずはカラメルソースを作ります。
まとめて作って清潔な瓶に保存しておきましょう。
プリンを気軽に作れるようになります。

【カラメルソース】

必要なもの 
小さな鍋 
保存用の耐熱ガラス瓶

グラニュー糖 200g
水  120cc

1.鍋の中に材料を全て入れて弱めの中火にかける。
2.沸騰して砂糖が溶けきったら火を弱め、時々くるくるとシロップが鍋肌を回るように揺すってかき混ぜる。
3.鍋の端からうっすらと色付いてきたら焦がさないように気を付けて一旦鍋を火から外し、くるくると鍋の中のシロップで鍋肌を回すように揺すってシロップの色を均一にして火にかける。
好みの色に染まるまで繰り返し、好みの色になったら耐熱の保存容器に一気に移す。
4.火傷に気を付けてプリンカップにスプーンでつぎ回しておく。標準のプリンカップで10cc程度。

【ココナッツプリン】

必要なもの
蒸し器(たっぷりとお湯を沸かしてとろ火にしておく)
ボウル
漉し網
菜箸
ホイッパー

卵2個
人肌程度に温めた牛乳 200cc
ココナッツクリーム 200cc
ココナッツシュガー 40g

1.卵を平らなテーブルに当てて割り、ボールに入れる。あとで漉すのでカラザは取らなくても良い。
2.菜箸の先をボウルの底に付けたまま、上下左右に動かして卵白のコシを切るように混ぜる。
3.ココナッツシュガーを2のボウルに入れて泡立てないようによく混ぜて溶かす。
4.3のボウルにココナッツクリームを入れてよく混ぜる。
5.4のボウルに温めた牛乳を入れてよく混ぜる。
6.なめらかな仕上がりにするために、5のボウルの中身を漉し網で漉す。
7.プリンカップに等分に注ぎ分ける。
8.一度沸騰させてからとろ火にした蒸し器に入れて、とろ火のまま20分から30分蒸して固まったら粗熱をとってから冷蔵庫で冷やす。(出来立ての温かいプリンも美味しい)
9.カップの内側を薄刃のシフォンナイフや細身のパレットナイフ、竹串などでぐるりと一周させる。
10.お皿をかぶせ、かるくふって出す。

 今回はココナッツクリームを使ったココナッツプリンなのでココナッツシュガーを使いましたが、ココナッツクリームを生クリームや牛乳に、ココナッツシュガーをグラニュー糖や黒糖、黍砂糖に置き換えて作っても美味しく出来ます。
その際にはバニラビーンズなどで風味付けすることをお薦めします。
ふわふわと湯気の上がる程度のとろ火で蒸すと蒸し器の中の温度は70℃〜80℃程度がキープされて、卵白の完全凝固温度よりも少し低い温度で蒸すことになるのでなめらかな状態で仕上げることが出来ます。
火加減はとろ火を絶対厳守!
ココナッツプリンは濃厚なので、金属製の容器で作って冷凍庫で凍らせてアイスクリームにすることも出来ます。
その際はカラメルソース入れずに、冷凍庫に入れてから30分おきに空気を含ませるようにかき混ぜることをお忘れなく。

 で、今回はどうしてココナッツプリンなのか。
ココナッツオイルが抗酸化力の強い美容に良いオイルだと紹介されていて興味を持ったのです。
調べてみると他にも、アルツハイマーの予防や改善、中鎖脂肪酸によるダイエット効果、動脈硬化などのリスクを下げる等アンチエイジングにも効果があるとの事でした。
そんなに良いこと尽くしのココナッツオイルですが、甘い独特の風味でお料理に使うには少し抵抗があるとの方が多かったので、ココナッツオイルを豊富に含んだココナッツクリームを使ったおやつを作ってみました。
ココナッツが苦手な方は、同量の生クリームや牛乳に置き換えて作ってみてくださいな。